日本IBMシステムズ・エンジニアリング(株)[IBM Japan System Engineering Co.,Ltd]
で、社内ブログ「Lotus Community Blog」を運営している大川宗之さんにインタビューさせて頂きました。
大川さんはLotus Notes/Dominoベースで社内ブログシステムを自作されています。
システム面のご紹介と導入目的や運営上の課題や、モデレーターとしての悩みについてお話いただきました。
--まず、御社について教えてください。
IBMの100%子会社ですが、IBMの一部門的位置づけにある会社です。Notes/Dominoの技術支援を主に行っています。
--いつ社内ブログを導入したのでしょう。
2005年の12月に導入しました。
3ヶ月のパイロットフェーズを経て、正式稼動を検討しているところです。
--社内ブログ「Lotus Community Blog」の導入の動機はなんですか?
2005年の秋、Lotus技術者コミュニティの立ち上げについて上から私に指示がありました。
もともと、コミュニティツールとしてブログ、SNSに注目しており、色々と調査していたところでしたので、それでは社内ブログでやってみよう、と考えたのです。(社内ブログは草の根的に運営されるケースも多いようですが、)基本的には、トップダウンで社内ブログを導入してコミュニティを運営しています。
--ロータスコミュニティブログの目的は?
目的として、大きく2つあります。
1つの目的は、暗黙知の吸い上げとメンバーへの伝播です。
障害情報とノウハウの共有が主な情報共有対象です。既にそのような情報を共有するデータベースは多く存在しますが、例えば障害情報であれば原因が特定され、解決方法が明らかになった時点で公開されることが多く、速報性に問題がありました。社内ブログであれば、断片的な情報、不確実性を含む情報であっても、スピードを優先させて共有できる場を作れるのではないか、と考えたのです。また、個々人が持っているノウハウは、まだやわらかい段階では共有されず、文書化されることなく埋もれてしまうものが多くあります。そういった状態のノウハウも気軽に書き込んでくれればと考えています。これらを部門を越えて行い、今後さらに充実させていく必要性を感じています。
2つ目の目的は、新たな価値の創造です。
ロータス社では以前から「ナレッジアクシデント」という表現をよく使っていましたが、所謂「喫煙ルームでの情報交換」のような偶発的な知識の交流が行われることを期待しています。そこから新たなアイデアが生まれ、それがタスク化されて具現化するきっかけになることを狙っています。
また副次効果として、部門間のコミュニケーションが円滑になればと思っています。
ロータス株式会社と日本アイ・ビー・エム株式会社は2002年に統合しました。IBMとロータスでは企業文化が当然異なります。ロータス出身者とIBM出身者の間の心理的な垣根が取り払われているか、というとまだまだ不十分なところがあります。また弊社では部門が異なると殆ど顔を合わせる機会がありません。電話会議をよく行いますが、普段コミュニケーションがないことで、まれに議論に感情的なすれ違いが発生することもあります。社内ブログによって、お互いへの理解が深まり、こうした状況の改善にもつながるのではないかと考えています。
--全社員が使用できるのでしょうか。
日本IBMには約二万人の社員がいますが、ロータスの製品に関係するコアな社員だけを対象としています。クローズドなコミュニティであり、参加者以外は投稿および閲覧ができません。
参加は運営者からの招待制にしています。招待された社員は、個人ブログを持つことができます。
最終的にはアクティブユーザーが100人程度の規模を目指しています。
未発表の製品計画や実際のお客様のアクシデントなど、コンフィデンシャルな内容を含む情報も共有したいと考えています。不確実性を含む情報もあり、導入現場の混乱を避けるために、ある程度参加者は絞り込むつもりです。
記事の投稿はボランティアです。Lotus Community Blogへの貢献が、直接的に人事評価に反映されることはありません。
--利用状況を教えてください。
現在の登録ユーザー数は83名、一日の投稿数は2,3件ぐらいです。
3月8日の時点でアクティブユーザーは28人です。ただし、過去に一つでも記事を書いた人をアクティブユーザーと定義していますので、さらに活性化させていく必要があります。
現在は初期コアメンバーによるパイロット運営を実施していますが、4月からメンバーを拡大する予定です。
--これまで自社内で利用されていた情報データベースとの位置づけの違いは何でしょうか。
ブログという個人の情報発信スペースを設けることで、不正確なことを恐れず、情報や個人的な意見が投稿されやすくなります。
ブログコミュニティ内の議論で、全社と共有すべきと判断された場合は、公式情報として従来の情報データベースで共有します。
また、重要性の高い課題については、課題解決のための個別タスクを正式に立ち上げます。
--利用上のガイドラインは設けていますか?
ロータスに関連する記事のみに制限しています。
導入当初は、投稿内容に制限を設けずに自由な内容の記事投稿を許可していました。ただし、本来の狙いである技術情報の共有よりも、オフビジネス的な内容の記事ばかりが増えてしまいました。表現がカジュアルになり、投稿の敷居が下がる効果はあったのですが、行き過ぎた表現もでてきました。
そこで、色々と悩んだあげくにロータスに関係するものだけにするよう、ユーザー全員にメールで呼びかけました。
とはいえ、仕事にちょっとでも関係あればOKです。ロータスについて感じたこと、思ったことを自由に投稿してもらいたいと思っています。
ブログコミュ二ティへの参加は、ユーザーが所属する部門の承認を得るようにしています。一部の部門長には、Lotus Blog Communityの重要性が十分理解されず、遊びだと考えている方もいます。現在は、マネージャーの承認を得て、コミュ二ティへの招待を行っています。
--導入効果の測定はどのように行っていますか?
効果測定の指標としては、大きく分けて三つ設定しています。
1.アクティブメンバー数
2.情報の共有数(重要障害系、ノウハウ系など)
3.Evaluateステージへのインプット数
<<システムデモ>>
・Lotus Notesクライアントで作成されている
オフラインでの閲覧、記事作成が可能
■投稿
・リッチテキストでの投稿
HTMLタグなしで、リッチテキストが書ける。
・カテゴリの指定
システム共通のカテゴリを使用する。(機能的には各ユーザーがシステム共通カテゴリを作成できるが、カテゴリの乱立を避けるために自粛してもらっている。)
・コメントとトラックバックが可能
・記事ごとのアクセス件数の表示。
但し、オフラインでアクセスした場合は、カウントされない。
■閲覧
・記事の検索
特定のブログ内の検索、および全ブログを対象にした検索が可能。
・お気に入り登録(ブックマーク)
お気に入りのブログを登録することができる。
・最近コメントがついた記事
ポータルに表示される。
■その他
・在籍ステータスの表示
・チャットアプリケーションが起動できる。
記事について投稿者と直接話すことができる。
・デザインの変更
画面の一部については、背景を変更することができる。
ユーザーが自分のブログとして愛着を持てるようにするため。
--システムの特徴は?
WEBベースのブログではなく、あえてLotus Notesクライアントによるブログツールを作成しました。
理由はいくつかありますが、一つはオフラインでの閲覧・投稿が可能なことです。
Lotus Notes/Dominoではクライアントにデータベースの内容のレプリカを持つことができます。オフラインで他のメンバーのブログを見て、記事を作成し、後でサーバーと同期させることができます。
IBMでは裁量労働制によりオフィス以外での自由な勤務が認められていますが、社外でも社内ブログを利用できるので大変便利です。
またLotus Notesクライアントのブログから、既存のLotus Notesデータベースの資産へのアクセスも容易になります。Lotus Sametime (IM機能を提供するLotus製品)とのシームレスな連携も可能です。例えば、ブログの投稿者の在席ステータスを表示しています。ブログ画面からチャットアプリケーションを起動して、投稿者にすぐにコンタクトをとることが可能です。
足あと機能は現在ではあえて搭載していません。もちろん、Lotus Notes/Dominoの仕組みとしては実装可能です。読む側の心理として、足あとが残ることでアクセスしづらくなるのではないか、と考えています。
メールテンプレートに組み込むことも検討しました。
PIM的なツールの付加機能とすることで、より個人スペースの演出が強くなり、個人メモを公開するような感覚で記事を投稿できるようになる可能性があります。
ただし、この方法はシステム全体への影響範囲が広いため、今回は採用しませんでした。
--課題はなんでしょうか?
一部のアクティブなユーザーが活発に記事を投稿する一方で、記事投稿に引け目を感じてしまうユーザーもいます。これはブログポータルの弊害だと考えています。Lotus Community Blogは、全ての新着記事のタイトルを通知するブログポータルを備えています。
自分の投稿記事がポータルに表示されてしまうことで、ブログの特徴である「個人スペースで自由な情報発信できる」という利点が薄れ、パブリックな場への投稿に近くなってしまいました。
ブログでの情報発信の習熟度合いに応じて、段階的にデビューできるような仕組みが機能的に必要かもしれません。
また、ディスカッションデータベース形式での議論に慣れているがゆえの弊害もあります。
IBM社員は入社以来ずっとLotus Notesを利用しています。そのため、ブログの使い方がどうしても「ディスカッションDB的」になってしまいます。つまり、ブログの一エントリに相当するような情報量の文章が、他のユーザーのエントリのコメントとして投稿されてしまうのです。
トラックバックが利用されれば個人の知識はその人のブログに集約されますが、個人の持つ知識がブログのコメントに分散してしまい、個人がブログを持つことによるKnow Who効果が薄れてしまいます。
プロフィール写真をアップロードすることができますが、ペットの写真などが多くなかなか自主的に顔写真が貼られることが少ない状況です。顔写真があることで、互いの距離感がより縮まりますし、Know Who効果も高まりますので、顔写真の重要性を繰り返し訴えています。
--Lotus Notes/Dominoユーザーに対して、Lotus Community Blogの仕組みを販売する予定はありますか?
社内利用を目的としており、販売は考えていません。
ただ、ご要望があれば、無償配布を何らかの形で行う可能性はあります。
---
日時:2006年3月24日 19:00-21:00
インタビュー:iUG事務局
文責:丹野瑞紀
丹野瑞紀(たんの みずき) ベンチャー企業ではたらく男のブログ |
コメント