総務省では、ブログやSNSのビジネス利用の促進を支援する一方で、自ら省内にSNSを導入し地方局と本省のコミュニケーションの活性化をはかっている。
省内でのSNS活用状況について、総務省の情報通信政策課の三田氏、西馬氏、藤井氏にお話しを聞いた。
--まずSNS導入の経緯について教えてください。
これまでは、本省と地方局また地方局間のコミュニケーションツールはメールが中心でした。地方局の職員が、他の地方局に出張に行くなどの機会は殆ど無く、違う局の職員がお互いに顔を合わせる機会は少ない状況です。特に大きな課題はありませんでしたが、面識のない他局の人にメールを送りにくいと感じていました。
また地方局の職員から直接本省の職員にメールが来ることはあまりありません。地方局から見た場合、本省との間に見えない壁があるように感じる場合があるようです。
そこで、2006年3月から、省内SNS(SNS for Ministry and Local bureaus 略称「SMILE」)の試行的に導入し、本省と地方局また地方局間のコミュニケーションを活性化させようと取り組んでいるところです。
--システム選定上、留意した点はありますか?
省内にSNS用にサーバーを設置することも検討したのですが様々な点で問題があったので、ASPサービスを利用することにしました。検討段階では、ブログとSNSのどちらでも構わないと思っていましたが、SNSを導入してみて、足あとやプロフィール写真、最終ログイン時間などのSNSの特徴的な機能については、その便利さを感じているところです。
例えば、自分のユーザーとしての経験で言えば、SNSの機能である「足あと」を見ると誰が自分の日記を読んでいるかが分かるので、「地方局の人が見てくれている」ということも分かり、日記を書くインセンティブになっています。
--導入する上で障壁は?社内でブログやSNSを導入しようとする人の多くは、上長を説得することに苦労しているようです。
障壁は特にありませんでした。幸い、決裁者のSNSに対する理解があり、スムーズに決裁を得ることができました。
本当にみんなが記事を投稿してくれるだろうか、というこういったシステムを導入する際に一般的に感じるであろう不安はありました。
--導入に関して、どのような事前準備をしましたか?
導入する際に特に操作方法や活用方法に関する研修はしていません。mixiを使うのにマニュアルを読んでから使う人は少ないでしょう。SNSというのは直感的に操作しやすいインターフェースになっており、特に高いITリテラシーは必要がないと思います。
研修のかわりに1ヶ月間のプレオープン期間を設けました。プレオープン期間ではシステムの操作感や利用感をつかんでもらいました。
--運営事務局などを設置していますか。
本省に運営担当者を置いています。
パスワードの再発行や使い方の問合せに答える、などの事務的な作業を行っています。
そのほか、SNSの機能紹介などを行う、「ワンポイントアドバイス」を定期的に掲載しています。
--利用のガイドラインは?
簡単な利用ガイドラインを作成し、業務内容を中心として書くことにしています。
ガイドラインでは、誹謗中傷をしない、機密事項を書かない、など最低限のことは決めていますが、投稿内容を具体的に制限することはしていないので、ある程度、気軽に記事が書くことができると思います。
ただし、業務用のSNSなので、ニックネームは使用せずに実名にすることやプロフィール写真を登録する場合には必ず本人の顔写真にすることなどのルールは設けています。現在約半数のユーザーがプロフィール写真を登録しています。
記事の内容については、実名で書き込みをすることから、相互に記事の内容を確認し合うような状態になっており、業務に支障をきたすような書き込みは行われにくくなっています。
--SNSの特徴である「友達登録機能」や「コミュニティ機能」等を使っていますか?
マイメンバーという名称で、いわゆる「友達登録機能」はあります。
ただし、各個人の日記については、「マイメンバーのみに公開」といったような閲覧制限はできないようにしてあります。新着欄にはマイメンバーの新着日記だけが表示されるようになっています。
コミュニティ機能については、参加者のみが閲覧・書き込みできる非公開設定を可能にしています。
また、一般メンバーによる招待機能は無効化しています。SMILE利用にあたっては、本省が地方局の情報通信部長等を通じて、参加希望者を募集し、参加希望者がいる場合は、本省の運営担当者から招待メールを送る仕組みにしています。
--SNSの利用促進のために何か工夫をしていますか?
今月のSMILEをうまく活用している人、などをSMILEの中で紹介しています。もちろん紹介されたことが、職員の人事的な評価や報酬に結びつくわけでありませんが、表彰的な効果があると感じています。
また、我々自身が地方局職員の書いた日記に対して積極的にコメントを投稿するようにしています。
--利用状況はいかがでしょうか
現在、地方(11局所)と本省の職員あわせて約140名が登録しています。
地方局における参加者は、各地方局が決めることになっており、各地方局によって方針が異なりますが、地方局によっては情報通信部の職員全員が参加することとしているところもあります。
参加者全員がアクティブというわけではありません。局によっては、アクティブなユーザーが2~3名いるところもありますが、ほとんどアクティブユーザーがいないところもあります。
また、積極的に発信をしている人も、現時点ではあまり多くありません。ただし、「足あと」を見ると、積極的に情報発信をしなくても閲覧だけをしている人は多いようです。
そもそも現時点で全員が情報発信に積極的であるならばSNSは不要かも知れません。SNSを活用することで、次第に情報発信の敷居を下げられると考えています。
--記事の内容はどういったものが多いのでしょうか?
業務関連が中心になっています。書き込んだ内容を、職場の上司が見ることができるので、投稿内容を厳しく制限しなくても、自然と業務関連が中心にならざるを得なくなっていると思います。
--利用状況の数値的な分析は行っていますか?
SMILEの試行を始めてからまだ1ヶ月強なので、数値的な分析はまだ行っていません。マイメンバー数や日記数などは省内のコミュニケーション活性化をはかる指標として考えられるのではないかと思っていますので、今後、数値を集計して分析してみたいと思います。
また、数値的な分析ではありませんが、このSNSにはアクセスされる頻度が高いユーザーのランキングを表示する機能があります。このランキングで地方局の職員が上位になることもあるのですが、これは本省だけではなく他の地方局の職員のアクセスによるものだと思われます。このような点を見ると、これまで少なかった地方局間のコミュニケーションパスとしての役割をSNSが果たしつつあるのではないか、と感じています。
--導入効果は?
地方局間、本省地方局間のコミュニケーションは多少は増加していると思います。
また、地方局の職員の顔が見えるようになったことは大きいと考えています。
ただし、現時点では、あくまで個人間の結びつきであり、組織として局間の結びつきが強くなったわけではないと思っています。SMILEのアクティブユーザーがハブとなって局間を結んでいるので、ハブの役割を担う職員が異動になってしまえば、局間のコミュニケーションは元に戻ってしまうおそれがあります。
また、これまでは地方局職員と本省幹部が直接コミュニケーションをとる機会は多くありませんでしたが、このSMILEにより地方局の職員のアイデアが直接本省に届く仕組みができました。SNSによって中間管理職の役割が変わるかも知れません。
なお、当初は期待していなかった効果としては、本省内の情報交流があります。本省内でも他局・他課の業務はあまり知る機会がないのが現状なのですが、このSMILEによって他課の状況が良く分かるようになりました。
ところで、最近、ある地方局職員が、SNSで質問をして回答を得ることができ助かった、という記事をエントリーしていました。誰に聞いてよいかわからない、直接メールで聞くのは気が引けるような質問ができるようになったと思います。ただしこれはSNSだったからかどうかは、厳密にいうとわかりません。組織横断的な場であればMLやBBSでも良かったのかもしれません。
--業務の生産性にはどのような影響がありましたか?
まだ結論を出すのは早いですが、実務上の作業で効率化できそうな点もあると思います。例えば、これまでは地方局とのファイル共有は主にメールで行っていましたが、頻繁に更新する「地方局担当者名簿」のような資料についてはコミュニティの掲示板に資料を添付しておき、各地方局で自由にそれを更新できるようにすれば、メールで資料を配布する場合よりも最新の文書の共有が容易になります。更新したという情報はコミュニティのメンバーに自動的にメール配信されますので、関係者は更新と同時にそれを知ることができます。ただし、現時点で、このような取組を行っているのはごく一部ですので、今後、利用が拡大することを期待しています。
また、自分が作成した資料を職員全員にメールで送りつける、ということはなかなかできませんが、日記やコミュニティの掲示板に添付するのであれば、比較的心理的敷居は低いでしょう。
本省で作成した資料を地方局で使用することはありますが、逆のケースはあまりありませんでしたが、地方局には色々とノウハウが蓄積されていると思いますので、SNSで資料を共有することで、地方局で作成した資料を他の局、あるいは本省で再利用するなど、業務の重複を削減する効果があるのではないかと期待しています。
--運営上の課題は?今後の展開について教えてください。
現状は特に大きな課題を感じていません。
9月末に試行期間が終了しますので、その後に導入効果をまとめて公表したいと思っています。
試験期間後にどうするかついては、試行期間中にどのような効果があがるか次第です。個人的には10月以降も継続して活用していきたいと思っていますが、導入効果の有無は地方局のユーザーがこのようなSNSを必要だと感じるかどうかで判断されるべきものと思っています。
--SNS導入の他省への拡大の予定はありますか?
各省庁が導入を検討する際の参考になるように、試行期間終了後に結果をとりまとめて公表する予定ですので、その結果を見て、各省庁で判断をしていただくことになると思います。
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日時:2006年4月20日 14:00-16:00
インタビュー:iUG事務局
文責:丹野瑞紀
丹野瑞紀(たんの みずき) ベンチャー企業ではたらく男のブログ |
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