「第2回 社内ブログ/SNS研究会」では事例紹介として2名のゲストスピーカーをお招きしました。始めにご登場いただいたのは、Six Apart社の事業開発ディレクター、安田俊彦さん。「イントラブログの現状と未来」という題でご講演いただきました。
ブログはキャズムを越えたのか?
まず、ブログ普及の現状について「キャズム理論」を使って考えると、コンシューマ向けのブログとビジネスブログが「既にキャズムを越えた」と考えられるのに対し、イントラブログはまだキャズムを越えていないと述べられました。
しかしこれまで「イノベーター層の個人が自分でブログを使ってみた結果、ブログの効果に気づき、社内にブログを導入しようとする」という例が多かったのに対し、ここ2、3ヶ月は「企業が業務上のツールとして使うために、他のグループウェアとも比較した結果、ブログを導入する」というアーリー・アダプター的な例が増えてきているそうです。
イノベーター的なイントラブログの導入事例として、カシオ計算機の事例をご紹介いただきました。カシオのイントラブログについては、先進事例として取り上げられることも多いですから、既にご存知の方も多いでしょう。
カシオでは経理部門や総務部門など、社内に向けて情報発信する機会の多い11の部門と、経営陣向けにブログを用意し、情報発信の頻度を上げることに成功しているそうです。詳しくは以下のページで解説されていますので、ご一読下さい:
Six Apart - Blog on Buiness: カシオ計算機がMovable Typeを使う理由
次にアーリー・アダプター的な導入事例として挙げられたのは、大手流通業A社の事例。こちらは今月15日にカットオーバー予定とのことで、まさしく最新事例の紹介となりました。
これまでA社では、本部からの連絡用に各店舗にメールアドレスを1つ与え、正社員のみに使用させるという体制を敷いていたそうです。しかし店舗スタッフならアルバイトも含め、誰でも書込みが可能なブログを用意。売れ筋情報など現場の生の声を吸い上げると共に、本部の意見も発信するという「双方向コミュニケーション」を実現するための装置として使い始めるとのこと。なんと、ユーザー数は数万人という単位。そのため、店舗からの情報を効果的に把握するためにポータルサイトを用意し、カテゴリやステータスという切り口で記事を分類できるようにしてあるそうです。
最後に実験的な取り組みとして、Six Apart社内での事例をご紹介いただきました。Six Apart社はブログツールを提供する企業だけに、社内でのブロガー比率が高く、これまで情報共有にはWikiを使用していたそうです(個人的に書きたいことがあれば、個人ブログに書込みをしていたのだとか)。しかし現在は社員全員にブログを与えると共に、各ブログをアグリゲートして最新エントリ・コメントを表示するポータルサイトを構築したとのこと。
ブログに書き込まれる記事は、日々の作業日報やブレストの結果、ニュース記事の紹介など、「今後ストックしておく必要はないが、いまは共有しておきたいフロー型の情報・アイデア」になっていて、ストック型の情報は従来通りの方法で保管しているそうです。こうしたフロー型の情報がオンラインで発信されることで、ディスカッションが促進されるという効果が出ており、この実験で得たノウハウをお客様にも還元していきたいとのお話も出ていました。
社内ブログのメリットと課題、そして将来とは?
これらの事例を通じて言える「イントラブログの導入メリット」として、「低コスト(システム構築コストだけでなく、心理的コストも含む)で情報発信ができるようになることで、日々のちょっとした『気づき』がオンライン化し、それによって巻き起こったコミュニケーションが新たな価値を生む」という解説がされていました。
今後、社内におけるブログはどのように発展していくのでしょうか?この点について、安田さんからは「より大規模化(数千から数万ユーザーといった規模)すると共に、業務上必要不可欠な情報も扱う、より信頼性の高いシステムへと発展する。またユーザー管理や文書管理など、他のエンタープライズシステムとの連携が可能なシステムになるだろう」とのコメントがありました。その反面、課題としては「検索機能やユーザー管理機能の追加、ストック型情報を保管するシステムとの連携など、現在の社内向けブログだけでは不足している機能を補うと共に、記事投稿の活性化や、共有した情報をより現実のアクションにつなげる仕組みといった、運用面での取り組みが必要」とのこと。
最後に安田さんから「イントラブログの事例蓄積はこれからであり、まさに研究会参加者のようなイノベーターによって導入が進められている最中。事例や製品への要望を皆様と共有し、2006年の年末には『キャズムを越えた』と言えるよう、盛り上げて行きたい」というメッセージをいただきました。
個人向けのみならず、数多くのビジネス向けブログソリューションをご提供されてきたSix Apart社ですが、今後エンタープライズ・ブログ市場への取り組みを強化されるとのこと。事実、Movable Typeの法人向け機能開発拠点を日本に移したり、日本オラクル社との提携を発表するなど、イントラブログの促進に力を入れられている姿勢がうかがえます。Six Apart社の取り組みにより、ブログが社内のコミュニケーション・ツールとして認知される日が、人々の予想よりずっと早くやって来るかもしれません。
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