「第2回 社内ブログ/SNS研究会」事例紹介の二番手は、食品業の大手A社でナレッジ・マネジメントの推進を担当しておられたSさん。Sさんの事例は社内ブログで はありませんが、LotusNotes上の社内報を通じたコミュニケーションを成功させるために、Sさんが事務局として行われてきた取り組みをご説明いた だきました。
A社は連結ベースでの従業員が8,000名以上、パート・アルバイトを含めると1万人以上が働く大企業で、早くからナレッジ・マネジメントに取り組んでお られました。今回お話しいただいた「オピニオン」という企画がスタートしたのは2001年11月。これは社員から7~8名をピックアップし、 LotusNotes上の社内報に掲載する記事を書いてもらう、という仕組みです。投稿者は週1回、最低4回の記事作成が義務づけられ、4回終了後はバト ンタッチする相手を探して交代するか、そのまま書き続けるかを選択するようになっています(ちなみに最長で1年4ヶ月間、記事を書き続けた社員がいらっ しゃるそうです)。
記事の内容については、最初は時事的な話題を求めていたのですが、やがて自由に書き込んで良いということになったそうです。その結果、現在では仕事の話 (過去に担当した業務で得た知識や、現在の仕事上の悩みなど)から、家族の話や趣味の話など多岐にわたる記事が書かれているとのこと。
記事には自己紹介へのリンクが貼られていたり、コメントが投稿できる(ただし他ページ上での表示になる)など、ブログ的な性質も持っています。また記事は LotusNotes上の社内報上に掲載されるだけでなく、メールでも配信されるとのことです。逆にブログとの違いとしては、LotusNotes上の データベースである点、記事の投稿ができるのは事務局のみ(投稿者は記事を紙もしくはファイルで事務局に提出し、事務局はその内容をチェックした上で、 LotusNotes上の社内報上に公開する)である点などが挙げられていました。
「オピニオン」は社内に様々な効果をもたらしました。例えばある投稿者は、社内でこれまで接点が無かった社員から声を掛けられたり、メールをもらったり と、記事がきっかけで新たなコミュニケーションが生まれたそうです。また記事が自分を見つめ直すきっかけとなったり、過去の業務で得た知識を伝承する媒体 となったり、さらに社内の雰囲気を改善する効果もあったとのこと。
Sさんは「オピニオン」を運営した経験から気づいたポイントとして、以下の5点を挙げられていました。
- 記事の内容に制限を設けなかったことで、個人が何を書くか考えるようになった。その結果、内容豊かなコンテンツが生まれた。
- 表現力には個人差がある。現在まで160人以上が投稿者となっているが、それだけ続けてみると、中にはクオリティの高い記事もある反面、記事を書くのが苦手な人も多かった。
- 投稿の最低回数(4回)を設けたことが良かった。これにより「最低4回書けばいいんだ」という安心感を持って記事作成に取り組んでもらえると共に、単発の記事では分からない本音を記事に書いてくれるようになった。
- 記事の投稿者をリレー形式にしたことにより、社内の人間関係をゆるやかに垣間見ることができた。
- 投稿者に対しては、事務局から積極的にレスポンスを行った。レスポンスを行うことが、投稿者に記事作成を促すインセンティブになった。
また講演に続いて行われた質疑応答では、以下のようなやり取りがありました。
- 同じ事を社内ブログで行っていたとしたら、成功していたと思うか? - 成功には事務局の存在が大きかったと思う。社内ではブログを知らない人間も多く、自主的な投稿に任せず事務局が主導した点は良かった。
- 事務局はどのような体制で運営していたのか? - 担当役員(兼任)1名と、専任スタッフ5名という体制だった(これは「オピニオン」だけでなく、そ の媒体であった電子社内報を運営する組織とのこと)。現在はルーチンとしてできることも増えたため、2名まで縮小されている。
- 「業務時間中に仕事以外の記事を書くなんて」という批判は無かったのか? - 電子社内報自体が、あえて仕事を離れた記事を発信するケースもあったた め、当初から批判があった。「オピニオン」がスタートしたのはそのような批判が下火になりつつある頃だったため、「オピニオン」に対する大きな反発は見ら れなかった。
- 自由に記事を書かせてしまうと、ネガティブな内容を書いてしまうというリスクは想定しなかったのか? - 想定していたが、ネガティブな内容だからと いって、会社にとって悪いことばかりではない。それを言ってくれることによって、改善につながることもあるので、どちらかと言えばむしろバックアップして いた。極端な内容の場合には修正を求めることもあるが、事務局で行うのは表現を修正する程度。
- 面白い記事を取り上げて、埋もれないような工夫をしているか? - していない。それをすると、投稿者が「こういう記事が面白いんだ」というバイアスを持ってしまう。事務局として、投稿された記事に差をつけるということはない。
A社の取り組みは、電子媒体による社内コミュニケーションの成功事例と言って良いでしょう。もちろん成功に至るには、事務局の方々の尽力が欠かせませんで した。A社の事例は、社内ブログ型のシステムにとって、コミュニケーションを円滑に進めるファシリテーターの存在が非常に大きいということを示しているの ではないでしょうか。
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