社内SNSを導入する企業が増えている。中でも、株式会社NTTデータは利用者数約4000人という類を見ない規模で社内SNSを利用している例として注目を集めている。
社内SNSの導入経緯と運営状況について、導入ワーキンググループの皆様にインタビューさせていただいた。(2006年11月14日)
--まず、導入の経緯を教えてください。
この社内SNSは、昨年2005年秋~冬にかけて実施した、社員によるボトムアップの組織横断型変革活動「新・行動改革ワーキング」の成果の1つです。
当社の前身であるNTTデータ通信株式会社が1988年にNTTより分離独立してから、再来年で20年になります。おととしごろから当社でもいわゆる大企業病の兆候に対する懸念から企業診断調査を行った結果、さらなる成長のためには“変革”が必要である、という声が聞かれました。そこで経営企画部が事務局となり、「意識改革の取り組み」を開始しました。
まずは変革していく方向性や10年後、20年後のNTTデータのあるべき姿を明確にするために、新たなビジョンの確立を目的とした「行動改革ワーキンググループ」が発足し、公募で集まった34名の社員の手で新しいグループビジョンと10項目からなる行動ガイドラインが策定されました。
第三公共システム事業本部 鈴木宏史氏(左) 第一公共システム事業本部 豊島やよい氏(右) |
次に、策定されたグループビジョンと行動ガイドラインを“絵にかいた餅”で終わらせないため、社員の自律的な変革行動を促すための具体的な施策検討を目的とした「新・行動改革ワーキンググループ」が発足しました。
このワーキンググループでは、公募で66名の社員が集まりました。入社二年目の社員から五十代のベテラン社員まで、また年齢・経験・性別・職種・勤務地など、さまざまなプロフィールの社員が8つのグループに分かれて活動しました。その中のひとつが、私たちが所属するチーム「リスペクターズ」です。
リスペクターズは、10項目からなる行動ガイドラインの中から「セクショナリズムを排し、仲間の知恵と力を合わせます」をテーマに選び、“社内のセクショナリズムを打破する!”ための施策の検討を3ヶ月に渡って進めました。
--セクショナリズムについてもう少し詳しくお聞かせください。
プロジェクト制による開発が主体の当社だからこそ、セクショナリズムがあるのは当然だと思うのです。けれどもセクションがあるがゆえに、また社員数8,000名という大所帯ゆえに、私自身、セクショナリズムは大きな課題だと感じることもありました。
たとえば、同期であっても部署が違うとなかなか会うことはありませんし、誰がどんな仕事をしているか、なかなか知り得ません。また、同じようなソリューション開発を複数の部署で行っていることもありますし、他の部署のことまで興味を持たない、ということもあります。分からないことがあったとき、社内には解決策が分かる人がきっといるだろう、と思いながらも誰に訊けばいいか分からない、ということもあります。
議論の中で、組織に起因するものだけでなく、職種間、男女間、年代間、経験者採用社員と新卒入社社員間など、社内には多くのセクショナリズムが存在している、と私たちは気づきました。また、当社は複数の拠点にオフィスが点在していますので、距離という物理的なセクショナリズムもありますね。
これらのセクショナリズム打破する方法を考えるにあたり、私たちはセクショナリズムを3つの壁に定義しました。
◎3つの壁。
・意識の壁
→そもそもセクショナリズムに気付いていない、または気付いていてもそれを問題だとは思っていない状態。
・情報の壁
→セクショナリズムを越えて活動したいと思っているが方法が分からない、または誰に聞けばいいか分からない状態。
・連携の壁
→意識と情報の壁を乗り越えたが、組織のルールや互いの利害関係により連携できない状態。
企業改革は特定のポイントだけに効果が出ても、意味がありません。けれども響きやすいところから効果を出すことで、「後に続け」という人が出てくるだろう、と仮説を立てました。そこで私たちは、これらの3つの壁とターゲットを以下の図で定義しました。
まずは想いを持っていて、ちょっとしたきっかけがあれば動くであろうカテゴリ(図の20%の部分)を対象としました。
そして、セクショナリズムを打破する突破口として個人に着目しました。セクショナリズムを超えるには、「組織の○○さん」ではなく「人として」「自分として」考え発言し、人となりを知り合い、相手を尊重することが大事だと考えたのです。
社内SNSの目的は、“発信・気づき・つながり”の3つとしました。
まず「発信」とは、日頃抱えている想いや疑問を自分事で発信してもらうことです。
次に「気づき」とは、広い社内にはさまざまな素晴らしい人がいることに気づいてもらうこと、また他の人から見れば自分もスゴイところを持っていることにも気づいてもらいたいということです。
最後に「つながり」とは、今までの仕組みや環境では成し得なかった新たなネットワークを構築したり、途切れがちになっていた既存のネットワークを再構築したりして欲しい、ということです。
また「社内SNS」と合わせ、もう1つの施策として「新・社内ポータルサイト」の構築も提案しました。
「井の中の蛙」になりがちな社員に、まず自分が狭い世界にいることと外の世界があることを知ってもらい、自発的に井戸から出たいと思ってもらうため、社内SNSを含めイントラネット上に蓄積された膨大な情報の中から、「井の中の蛙」に刺激を与える情報を“見つけて・磨いて・届ける”ことが目的です。
「社内SNS」導入以前から、欲しい情報を見つけられない「情報迷子」が大勢いると感じていましたので、彼らに「情報の壁」をも超えてもらうきっかけを作りたい、との想いから発案しました。
これら2つの施策を、ワーキンググループの活動成果として経営層に対して提案し、今年1月に実現に向けた活動が承認されました。
その後「Nexti」と名付けた社内SNSは、3ヶ月でコンセプトメイクとシステム構築を行い、4月中旬に全社オープンしました。
--システムの特徴を教えてください。
ほぼ一般的なSNSサービスと同じ使い勝手だと思いますが、若干違う点として、メンバー間のQ&Aコーナーがあります。
日記の新着欄は自分の仲間のものしか表示されません。けれどもQ&Aコーナーの新着欄には、全メンバーが投稿した質問が自分の個人ポータル画面に表示されます。
日記を投稿するときのオプションで投稿の種類をQ&Aと指定すると、Q&Aコーナーに表示される仕組みになっています。簡単な操作でみんなに質問を投げかけられること、見やすいページの一等地にQ&Aコーナーを設けていること、投稿者を知らなくても回答が書き込める敷居の低さの3点がQ&Aコーナーが盛り上がっている理由だと思います。
日記の公開モードは「全体」「仲間のみ」「自分のみ」の3種類あります。定量的に集計したわけではないのですが、感覚的には「全体」が多く、仲間のみの公開で日記を書く人は少ないようです。仲間うちだけでやり取りするなら、mixiやGREEを使えばいい、あえて社内SNSで発信する必要はない、という心理のようです。「自分のみ」は自分だけの備忘録や下書きのような位置づけで使われているようです。
Nextiには、個別のログイン画面を設けず、全社的に導入されているシングルサインオンでアクセスするようにしました。この点が唯一と言ってもいい大きなカスタマイズ点です。これによりプロフィール欄に自動的に名前とメールアドレスが自動的に登録・表示されるようになっています。つまりシステム的にニックネームなどの匿名で利用できないようにしたのです。
構築までのスピード感を重視し、機能面については基本的にパッケージに対するカスタマイズは最小限にしました。その分、「社員一人ひとりの人となりが見える」ことを実現するためのコンセプトメイクや運営方法の検討に力をかけました。
たとえばデザインや文言、運営姿勢について、色々と工夫を凝らしています。
社内SNSの導入目的や位置づけを説明するページのタイトルは、「About Nexti」といった表現ではなく、「こころざし」という表現を用いました。また、利用規程もたった3箇条しかありません。「第○条~」という詳細なルールは必要なときに参照してもらえればいい、という扱いにしています。難しい漢字や表現を使わず分かりやすく語りかけるような表現を使うことで、使う人の心に届くように、という点にも配慮しています。
また「ユーザー」という言葉をなるべく使わず、かわりに「メンバー」という表現を使っています。「私使う人、あなた運営する人」といったシステム管理者とユーザーという関係を社員に感じさせたくないという想いからです。
--導入の際に障壁はありませんでしたか?
全社的にオーサライズされた取り組みとしてトップのコミットがあったため、導入にあたって大きな障壁は特にありませんでした。
当社の事業の特性上、経営層も新しいサービスへのアンテナを張っています。SNSが注目を集めていることは知っていたようです。
社内SNSの導入に対して経営層は、「よりによってまたシステムをいれるのか」と感じたそうです。また、SNSについて詳細はよく分かっていなかっただろうと思います。ですが、「社員がやりたいと目を輝かしている、これはやらせるしかない。もし仮に失敗したら潔くやめればいいだろう。」と思ったそうです。
管理職を含め社内には、SNSの位置づけに疑問をもつ人もいます。そういう人には、「ネット上のタバコ部屋を実現したい」というと理解してもらえることが多いです。
タバコ部屋では、雑談から業務にかかわるものまで、さまざまな会話が行われています。また適量であればリフレッシュにもなります。Nextiでもくだけた内容の日記で息抜きすることもあれば、Q&Aコーナーで業務的な質問に回答が集まったりと、メンバー自身がNextiをどう使うかを判断しているのです。
「NTTデータの社内SNS--Nexti (2/3)」に続く
丹野瑞紀(たんの みずき) ベンチャー企業ではたらく男のブログ |
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